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Channel: 音盤再生家の音楽話
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シューマン 交響曲第1番(改)

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とうとう雪が降って来た。どうやら台風が大陸の寒気を引っ張ったらしい。
ここ一週間程、体調が優れず、どうしたものかと思っていたが、どうやら風邪のようだ。ビタミン剤なんぞを矢鱈と飲み込んで、何とか持ち直したように感ずる。
どうにも記事を書く気力が湧かぬので、過去の記事を見直していると、驚くべき事に気が付いた。何と前回シューマンの記事を上げてから、2年も間が空いて居るではないか。記憶の中では、つい最近の事のように感じて居たのだが、狐につままれたか、タイムスリップしたような不可解な思いである。以前の記事

さて、続きの2番から取り掛かろうと思ったが、2年前と今ではかなりPC環境も収録方法も変わっている。ここは仕切り直しで1番を今一度、収録し直そうと思った次第である。
何時もの如くyoutubeにアップしてみたのだが、前回敢え無く弾かれたバーンスタインがセーフで、これは良きかなと喜んでいると、今度はクレンペラーがブロックされてしまった。従って、今回はクレンペラーの堂々たる名演を聴いて戴けない事態となった。これが1番だけなら良いのであるが、2番以降もブロックされるようだと由々しき事態で、以後の記事の内容も考え直さねばならぬ。




セル/クリヴランド管 58年録音 CBS盤LP
これは私が始めて聴いたシューマンの音盤で、当時は何が良いのかさっぱり理解出来なかった。私はシューマンの音楽を好むが、この交響曲1番は余りに能天気過ぎて好きになれないのだが、近年、オリジナル稿の演奏やら、マーラー・エディションによる演奏を聴いている内に、かなり抵抗が無くなって来ている。そうして、ふとセルに戻ってみると、中々に含蓄が深い演奏だった事に気付いた。部分的にマラー・エディションを使うなど、単に明るい能天気感に陥る事を避けているのが判るのである。
カラヤンが尊敬して居たと云うだけあって、セル/クリーヴランドの演奏の技量は大変緻密で見事であるが、燃え上がる情念であるとか、湧き起こる感興と云う点では些かクール過ぎる感じは否めない。コンクリート剥き出しの近代建築。嫌いでは無いが住むには抵抗がある。



クーベリック/ベルリン・フィル 63年録音 DG盤CD
クーベリックはバイエルンとの演奏もあるが、私はキビキビとしたBPOとの演奏の方が好みである。冒頭の美しいファンファーレの後、いきなりパワー全開で驚くが、その後は適度に抑制された明るく弾む表現で非常に聴き易い。何と言ってもBPOの類稀なる演奏能力で、水も漏らさぬ隙の無い表現に聴き入ってしまう。セルのような冷たい美しさとは違った自然な共感が、矢張りシューマンはドイツ音楽なんだと納得させられる。際立った癖の無い演奏で、何と云う事の無い単純なフレーズも美しく聴かせるBPOの演奏は、飽きの来ない美演であると思う。



マズア/ゲヴァントハウス管 73年録音 Deutsche Schallplatten盤CD
ゲヴァントハウス管は、この曲の初演を担ったオケであるから、それなりに伝統もプライドも持っているであろう。出だしから非常に重厚、濃厚で密度の高い演奏である。この時期のマズアは立ち位置を良く解っていて、伝統を重んじたストレートな演奏に好感が持てる。この演奏を聴くと、つくづく、シューマンはザクセンの音楽なんだと納得してしまう。これが伝統と云う無言の力なんである。



クレンペラー/ニュー・フィルハーモニア管 66年録音 EMI盤CD
2年も前にアップした音源なので、もっと良い音で入れ直そうと思ったのだが、ブロックされてしまい、今回は御聞かせ出来ないのが残念である。
クレンペラーは遅い、と云う概念があるが、シューマンやブラームスを聴くと、速くはないが遅くも無い。寧ろ噛み締めるような音楽運びは、シューマンの音楽の持つポリフォニックな要素を際立たせて面白い。しかもオケの配置が対向配置であるから、音が右に左に飛び交い、シューマンの巧みな音楽性を再認識させられる。最初にこの演奏を聴いていれば、もっと早い段階でシューマンの天才に触れられたのにと、忸怩たる思いである。
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カラヤン/ベルリン・フィル 71年録音 DG盤LP
カラヤンが初来日したのは1954年。この頃から日本でも、漸くマトモにクラシック音楽が聴けるようになって来た頃の事である。それから約60年も経とうと云うのに、未だにカラヤンの音楽を良く言わない輩が居るのが残念である。曰く、人工的であるとか、大衆に媚びているだの、精神性に欠けるなんぞと、見当違いな御意見を開陳される。要するに、野放図で野卑で抑制が効かず、時折音が外れたりスコアに無い音を出したりする演奏が「生きている音楽」であり、芸術性、精神性に優れると云った戯けた見当違いの賜物である。侘び、寂であるとか、風格なんぞを否定する心算は毛頭無いが、それらと同じように磨かれた美、一部の者にしか享受出来ない権威主義的享楽を跳ね返す美について、理解出来ていない。音楽を深く聴いていない証左である。
カラヤンのシューマンは文句無く素晴らしい。判り難い部分も、判り易く華麗に提示してくれる。これは非常にドイツ的な美である。伝統的に装飾された近代建築である。勿論耐震基準も満たしている。
DGの録音はオカシなブレがない。西洋音楽が判っているから、常に核心を突いている。



ドホナーニ/クリーヴランド管 87年録音 LONDON盤CD
私はドホナーニのシューマンは好んで聴いている。流石にカラヤンの後だとくすんで聴こえるが、これが本来のシューマンの音楽だ。ドホナーニはシューマンに適性があると思うが、この1番は今一つ燃焼度不足である。同じハンガリー系のショルティもそうであるが、この曲に関しては少しばかり手に余している感じが否めない。それでもセルと比べると暖か味があり聴き易い。



A・ジョルダン/スイス・ロマンド管 89年録音 ERATO盤CD
さして気に掛けてはいなかったジョルダンであるが、シューマンの交響曲を聴いて驚いた。4曲全てがそれぞれに素晴らしく、粒の揃ったシンフォニー・コンプリートだ。1番は少々流し気味かなと思うが、それでも充分にエモーショナルで惹き込まれる。シューマンが好きでなくてはこう云う演奏にはならない。ERATO録音は少々軟らか過ぎるが、逆に粗が聴こえないと云う効果があり、聴き慣れると左程違和感を感じなくなって来る。



シャイー/ゲヴァントハウス管 07年録音マーラー・エディション) DECCA盤CD
マーラーは原典版の響きを重視している。中々の見識である。初めての人は戸惑いと違和感があるだろうが、スウィトナーの原典版演奏を耳にしている者にとっては全く違和感が無い。しかもマーラー・エディションは改訂版の良い処も取り入れているので、正にイイトコ取りで、聴いていてワクワクされられる。渋さと躍動感がブレンドされた美味しい音盤なのである。マズア盤は同じオケで改訂版を使いながら渋いハーモニーを紡ぎ出していたが、シャイーのマーラー版の方が寧ろ明るさを感じさせる。マーラー版の方がピッチが低いので、本来ならば改訂版よりは暗く渋い音楽になるのだが、渋いハーモニーでありながら、リズムは躍動させているのである。この絶妙なバランス感覚がシャイーの美点だ。これはモロに私好みの音楽で、一発でお気に入りになってしまった音盤である。



スウィトナー/ベルリン・シュターツカペレ 86年録音原典版)DENON盤CD
原典版と言っても、この音盤のスウィトナーの演奏は本当の初稿、オリジナル自筆譜を態々図書館から借りて録音したものである。最初は若干戸惑ったが、聴いている内に改めてシューマンの飛び抜けた感性に驚かされる結果となった。ポリフォニーと云う面では、この初稿の方が徹底されている。春祭なんかを聴いている耳には裏拍子なんぞには違和感は無いと思うが、作曲当時とすれば大変に斬新な音楽だ。大変に優れた演奏だとは思うが、私はこの録音が気に入らない。ロケーションは御馴染みのキリスト教会で、これは問題ではなかろう。トンマイスターはシャルプラッテンのシュトリューベンであるが、音が混ざり過ぎて、折角のポリフォニックな面白さが半減している。BKのマイクの所為かも知れぬが、製作に日本人が係わっている所が怪しい。アナログ時代のシュトリューベンはもっと芯のある好ましい録音をされていた。シューマンの音楽を判っているならば、これ程余計な残響は要らざるものだと判断が付きそうなものである。
しかし、このオリジ版の演奏は私個人としては好みだ。この薄暗い雰囲気が好ましいと思う。



バーンスタイン/ウィーン・フィル 84年録音 DG盤CD
この演奏はブラヴォーである。VPOのシューマンはショルティ、メータ、ムーティなどあるが、何れも今一つ飛び抜けて来ない。その中で決定的に飛び抜けた演奏が、このバーンスタイン盤とフルヴェン盤である。バーンスタインのNYP盤はgustav師に御任せするとして、私はDGのVPO盤の担当である。何せ2年前はガッツリとブロックされて御披露出来なかったのだが、ここに来て難なくアップロード出来たのは何よりも悦ばしき現象である。
同じDGで、カラヤン盤と比較すると良く判ると思うが、出だしから全くVPOの音色だ。バーンスタインは、この音色を操れる数少ないマエストロの一人である。先ずは呼吸が良い。要するに溜めが効いているのだ。この溜めがあるからこそ躍動し燃えるバーンスタインの味が生きる。フルヴェンも確かに名演に違いないが、録音の古さは如何ともし難い。矢張り総合的に見てこのバーンスタイン盤が一頭地を抜いていると言って良いであろう。



フルトヴェングラー/ウィーン・フィル 51年録音 LONDON盤LP
最後はフルトヴェングラーであるが、この演奏も魅力と云う点ではバーンスタイン盤に引けを取らない。些か録音は古いのであるが、重みはバーンスタイン盤を凌ぐ。狂乱の度合いから言えば、文句無くNo,1である。ここには明るく軽く能天気なシューマンなんぞ何処にも感じさせない。ザクセンの頑固な交響曲作家が姿を現す。こう云う古武士の如きシューマンを表現する人はトンと居なくなった。詰まり、この路線ではこれ以上の演奏は今後は望むべくもないのである。





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