前記事(シューマン 交響曲第2番)の流れでブルックナーの交響曲第3番に取り掛かった。何故シューマン2番の流れかと言うと、前記事を御読み戴きたい。ここで簡単に言うと、シューマン2番の冒頭のパーンパパパーンである。
文字でパーンパパパーンと書くと、各人の脳内で如何様にでも変換して仕舞うので便利であるが、本記事で思い浮かべて戴きたいのは、ブルックナー3番のパーンパパパーンである。間違ってもブル4冒頭のパーンパパパーンではない。
ブル4に付いては記事を改めて論じたいと思うが、これはベートーヴェンのパストラルの遺伝子が濃く反映されている。これが判らないと、あの摩訶不思議な4楽章の謎が理解出来ない。
ブル3は、ヴァグナーの遺伝子でないのかい、と言われるやも知れぬが、音楽的にはそうでもない。ヴァグナーに献呈されたと云うだけの話で、ヴァグナーから刺激を受けたブルックナーが所々ヴァグナー好みのフレーズを取り入れたと云うだけの話である。前記事で触れたが、音楽の遺伝子はシューマンからの方が濃い。であるから、私はこの曲は非常に好んで聴いている。
ブルックナーの3番は、非常に良い曲だと思うが、如何せん解かり難い。何せ漠然とブルックナーの3番と言っても、何種類もの異稿が存在し、自分が何を聴いているのか判然としなくなる場合があるのだ。私が聴き始めの頃は、改訂版とハース版、ノヴァーク版の3種類を憶えていれば良かったが、その後ドンドン増えて、何が何だか判らなくなって行った。種々の解説や、ネット上の情報を読んでも、どうにもスッキリとしない。却って混乱の度を深めるような解説もある。堂々と間違っているの解説もあり、ジャケット表記も間違っていたり、曖昧であったり、表記していないものもあり、モヤモヤするばかりである。原典版と改訂版なんぞと云う単純な話ではない。何せ出版されている版のみで6種類もある。それに定義の曖昧な専門用語が絡むので、益々混乱する訳だ。
従って、この辺りのヤヤコシイ問題を私流に解きほぐそうと考えた。
本記事ではアッサリと年代は切り捨てる。完成年代と出版年代を追い掛けると、入れ違ったり逆さになったりで間違いの元である。知りたい方は後で調べて確認して戴きたい。ここでは、スッキリ理解するのが目的なので、年代は一旦忘れる。これが理解の第一歩だ。
更に、頭を整理する為に箇条書きにする。一個づつ押さえて戴きたい。単純に憶えてしまうと後は楽である。
①用語を覚える
ここを踏み違えると、後々訳が判らなくなる。基本を押さえる事が肝要である。
・稿:自筆譜、或いは自筆譜のバージョン。交響曲第3番は第1稿、第2稿、第3稿がある。
・版:出版譜、或いは出版譜のバージョン。従って、~版と云う表記は極めて曖昧である。6種類が存在する。
・校訂:自筆譜を検討、整理する事。校訂者はハース、エーザー、ノヴァークの3名。
・改訂:譜面を修正、変更、加筆する事。改訂者はシャルク、マーラーの2名。
②ブルックナーは第3番を3回書いた
最初はヴァグナーに献呈した初稿である。これは演奏されなかった。
次は初演の為に手直しをした。これは第2稿で、ここで初めて初演されマーラーがこれを聴いた。後に自筆譜はマーラーに贈呈され家宝となった。
最後は8番の改定と共に行われた。これが第3稿で、リヒターが初演した。
第3交響曲はブルックナーのオリジナルが3種存在するので、単に原典版と云う表現は避けるべきなのである。
③演奏されて音盤化されているのは概ね5種類である。
厳密に言うと、11種類程あるが、これを覚えるのは殆ど意味が無い。有名処で音盤化されているのは大体下記の5種類のどれかに当て嵌まると考えて良い。
・第1稿:1873年版、初稿、オリジナル、ファーストバージョンとも言われる。出版譜はノヴァーク版Ⅲ/1
・第2稿:1878年版、エーザー校訂版
・第2稿:1877年版、ノヴァーク版Ⅲ/2
・第3稿:1889年版、1888/89と云う表記もある。ノヴァーク版Ⅲ/3
・第3稿:1890年版、改訂版、レティヒ版と云う表記もある。
④指揮者によっては部分的にミックスしている
その場合、基本となっている版を表記すべきである。例えばセルの場合、基本的に第3稿改訂版であるが、部分的に第3稿ノヴァーク版をミックスしている。これは第3稿改訂版と表記すべきだ。
上記を踏まえ、当ブログでは次のように表記したい。
・第1稿ノヴァーク校訂版
・第2稿エーザー校訂版
・第2稿ノヴァーク校訂版
・第3稿ノヴァーク校訂版
・第3稿シャルク改訂版
⑤各版の違いについて文章で論ずると、却って訳が判らなくなるので、耳で覚えて戴くのが早い
当記事では違いの明確な第3楽章の終結部と第4楽章の終結部を収録した。但し、第3稿のノヴァーク校訂版とシャルク改訂版は非常に些細な違いなので、耳で判断するのは容易な事ではない。上から順に聴いて戴いても結構であるし、聴き馴染みのあるものから聴いて戴いても結構だと思う。
第3楽章終結部 第1稿ノヴァーク校訂版
第3楽章終結部 第2稿エーザー校訂版
第3楽章終結部 第2稿ノヴァーク校訂版
第3楽章終結部 第3稿ノヴァーク校訂版
第3楽章終結部 第3稿シャルク改訂版
第4楽章終結部 第1稿ノヴァーク校訂版
第4楽章終結部 第2稿エーザー校訂版
第4楽章終結部 第2稿ノヴァーク校訂版
第4楽章終結部 第3稿ノヴァーク校訂版
第4楽章終結部 第3稿シャルク改訂版